渡邉明弘建築設計事務所 [AKI WATANABE ARCHITECTS]

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「減築」が可視化する、既存の逞しさとおおらかさ

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Category
Date
2023.10
Summary

郊外の団地に併設された、築50年程になる店舗兼用住宅の一部を改修したプロジェクト。色々な増改築の跡からは色々な変化を乗り越えた過去が想像され、遵法性や性能はもちろんだがこの建物が持つ自由さや逞しさをより引き出したいと考えた。周辺環境の変化や過去の改造による諸問題を抱える建物に「減築」するアプローチを試みた。

Project Point
  1. 増築が重ねられてきた建物に「減築」を施すことで、建物を別の視点で再構成し、現実的な諸問題を解決しつつ既存躯体の可能性を可視化する
  2. 「減築」により生じた通り抜け「スリット」によって、建物で分断されていた表通りと裏通りを接続
  3. 「スリット」は状況に応じて2階へのアプローチや1階のサブエントランス、駐車場といった色々な役割を担う
  4. 「スリット」により生まれた2階へのルート等により、違反増築だった部分の撤去による適法化や動線を合理化

機能不全に落ちりつつも、可能性に満ちていたストック

郊外に広がる団地の外れに位置する13戸の店舗兼用・併用住宅長屋のうち、クライアントが所有する2区画を改修しました。
既存建物は、約50年前に、約3,000世帯のマンモス団地が誕生した直後にその外れに建設された、店舗兼用・併用住宅の長屋です。新築されて以来、地域のニーズに応え続けてきましたが、駅前に大型ショッピングモールが出店し、団地住民の高齢化が進むなど、周辺環境の変化により機能不全に陥った状態になっていました。

それに対しては場当たり的な改造が繰り返され、クライアントが取得した2区画では、1階の界壁や階段が撤去されて区画が繋がれ、未申請の増築がなされていました。これにより、2階へのアクセスは建物の裏側に迂回して違反増築の屋外階段からルーフバルコニーを経由する形になっていました。

このような改修により建物がスポイルされ空室が続いていましたが、逆にそこまで手が加えられ続けるほど、この建物は何かエネルギーに満ちているとも言えます。
その源泉は、縦横に走る力強いフレームや凹凸に展開するリズミカルなヴォリューム操作にあるように感じられました。私たちは、遵法性や性能は確保しつつも、この建物が持つ自由さや逞しさをより引き出したいと考えました。

「減築」により生まれる、多義的なスリット

そこで、これまで増築が重ねられてきた建物を「減築」によって再構成し、現実的な諸問題を解決するとともに既存躯体の可能性を新たな方法で表すことを考えました。

まず、1階の違反増築を撤去するのにあわせて、オリジナルのヴォリュームも一部を減築することにしました。そうすると、表通りから裏通りがつながる不思議な半屋外の空間が生まれます。
この通り抜けを「スリット」と呼び、車や自転車を置く場所、1階のサブエントランス、2階の共用エントランスへのアプローチといった、色々な意味を持たせることにしました。

1階の一部を解体することで、建物により分断されていた表通りと裏通りをつなぐ「スリット」が生まれた。

失われた動線を取り戻す 動線の整理と雰囲気の向上

過去の改修によって、建物を迂回して裏側の屋外階段からしかアクセスできなかった2階ですが、「スリット」によって、かつて階段があった部分に表通りから直接アクセスできるようになりました。
そこで、撤去されていた階段を作り直し、合理化された2階への新しい経路を作っています。さらに、塞がれていた開口部を復旧することで、薄暗い裏路地を明るく照らすエントランスホールとしての役割も持たせています。

既存。右側は違反増築だった箇所。
再生後の階段室入口。隠蔽されていた開口や撤去されていた階段を復旧した。左側の軒下空間は、屋内だった部分を屋外化した「スリット」の一部。

もちろん、裏通りに面していた違反増築のヴォリュームや屋外階段は撤去して適法化しています。

改修履歴の平面図。新築時は別々の区画だった店舗が過去に統合され、2階へは建物を迂回して屋外階段から上がる計画になっていた。1階にテナントを誘致するために2階の機能性が著しく損なわれていた。

2階住戸

2階の既存天井の裏には、大きな断面の小梁が敢えて長手方向に走っていました。この力強い梁を露出として仕上げ、既存建物のもつ自由さや逞しさを表出させています。
元々は住戸でしたが、減築により生まれた「スリット」でそうしたように、特定の目的に沿った”合理的な”計画というよりは色々な使い方に開かれたおおらか意味合いの空間に再編しています。

2階はゆったりとした既存躯体のスケールを表し、色々なシーンに開かれた空間にした。

特筆するコンテクストが無く縮小・高齢化が進む郊外のロードサイドで、色々な解釈や手つきを引き出す状況を作ることで、中長期的に建物が長寿命化すると考えました。
築50年程の店舗・住戸長屋を改修。周辺環境の変化や過去の改造による諸問題を抱える建物に「減築」するアプローチを試みたプロジェクトです。

所在地:千葉県
主要用途:店舗・共同住宅
構造:RC造
規模:地上2階
​延床面積:約326㎡​
調査・企画:渡邉明弘建築設計事務所
設計・監理:渡邉明弘建築設計事務所、赤崎雄太
施工:ルーヴィス​
撮影:堀越圭晋 / エスエス

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