渡邉明弘建築設計事務所 [AKI WATANABE ARCHITECTS]

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既存のポテンシャルを最大化する、最小限の操作

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Category
Date
2016.4
Summary

築35年の美容室+住宅を、ギャラリー+飲食店+住宅として再生した。
再生後の3つの用途を消防上別棟とすることで、防災設備を最小限化するとともに、既存の階段室に竪穴区画が不要となり、垂直・水平に連続した豊かな空間を獲得している。
また、旧耐震建築物のため、構造上不要な壁を撤去して建物を軽量化し、構造的な負担を減らした。新設する壁は消防の区画と水まわりの居室に必要な箇所のみとなっていて、最小限の要素を加えるだけの計画になっている。
既存のポテンシャルを活かすとともに新旧が混ざり合う空間とすることで、新築では得られない生活空間を獲得しました。

受賞:GOOD DESIGN AWARD 2018

Project Point
  1. 旧耐震建築物であるが、構造上不要な壁を撤去して建物を軽量化し、実質的な耐力を向上
  2. 既存のポテンシャルを活かすとともに新旧が混ざり合う空間とすることで、新築では得られない生活空間を獲得
  3. 2枚の壁を挿入することで3つの用途ごとに区画し、垂直・水平に連続した開放的な空間に再構成

計画概要

築35年の店舗付き住宅の再生です。建主は不動産業を営む傍らでギャラリーを運営しながら自身も作家として活動しており、自分の住処であると同時にギャラリーの運営と店舗の経営ができる場所として、この建物を取得しました。

既存。接道面の小さな花壇は撤去して、道路から直接1階に入れるように開口部も作り替えた。

3つの用途を区画して 空間構成を再構築

従前の所有者は地上1階から3階までを家族のための専用住宅として、地下1階を自身が経営する美容室として利用していました。
建主の生活は自身と犬1匹のため住宅部分は地上2階と3階にとどめ、地上1階を貸店舗、地下1階を建主が運営するギャラリーに変更しました。

断面図。1階は店舗と階段室を区画し、2、3階は居室と一体的な空間に再構成している。

3つの用途は消防令8区画により区画することで、消防法上はそれぞれの用途を別棟としています。これにより、防災設備を最小限にしてコストを抑え、竪穴区画を不要にして独特の空間をつくるなどを試みました。

2、3階の住宅部分。既存の天井を落として躯体に打ち付けられていた木毛版を白に塗装。入口の扉やバルコニーのサッシは既存。
1階はLDKを貸し店舗に変更。正面の窓と腰壁を撤去して出入口に変更した。右側は住戸と区画するために新設した区画壁。
地下は美容院からギャラリーに変更した。絵画や写真の展示だけでなく、演劇などにも活用されている。

構造上不要な壁を撤去して建物を軽量化し、旧耐震建築物の実質的な耐力を向上

旧耐震の建物であるため、構造的に不要な間仕切り壁をすべて取り払うことで建物全体を軽量化し、躯体への構造的な負担を減らしています。また、新設する壁はほぼ全てを乾式とした上で、新設する範囲も消防令8区画を形成するために設けた地上1階の貸店舗と住宅玄関の界壁と、3階の水回り部分のみに抑えています。

各階平面。赤い部分が新たに新設した要素。

既存のポテンシャルを活かす

既存建物をよく調べると、少し手を加えるだけで劇的に生まれ変わる可能性がたくさん隠れていることが分かったため、それらを最大限に活かすことを考えました。
たとえば、周囲の木造戸建てと異なりRC造による大きなスパンや耐火性能を持っている点に着目し、間仕切りを取り払って25帖程度の大きなリビングダイニングキッチンをつくっています。

2階のキッチンからリビング・ダイニングを見る。元々はいくつかの部屋や廊下に分かれていたが、スパンが大きいというRC造の特徴を活かしてワンルームに再構成した。

また、階段室は従前では竪穴区画により壁と鉄扉で閉じられ上り下りだけの機能に縛られていましたが、消防令8区画により竪穴区画を不要にしています。
こうすることで、間仕切り壁が取り払われてリビングダイニングキッチンと一体の空間になっているとともに、3層吹き抜けのダイナミックな空間に変化させました。

階段部分。もともとは左側や奥の部分は壁と鉄扉で閉塞されていた。竪穴区画を不要にしたことで、縦横に連続する開放的な空間になった。

グラデーショナルな新旧による新築では得られない空間

建主は祖父の代から受け継いできた家具に、海外旅行などの機会に少しずつ買い足してきた、自身が本当に良いと思うものに囲まれて暮らすことを望まれていました。また、前所有者も既存建物を丁寧に施工させて長い間大切に扱い続け、今後もその状態が続くことを願っていました。

そこで、新旧を対比させるのではなく両者が混ざり合うような状態を作ることにしました。たとえば内装の仕上げは新たに壁を設置して塗装した部分、デコボコした既存躯体や木毛版の上に塗装だけ施した部分、既存の壁紙を表面だけを剥がした部分、壁紙を全て剥がして下地のモルタルを露出させた部分、その上から塗装した部分など、グラデーショナルに連続した新旧がちりばめられています。

そこに、建主が数年前に買った家具、35年前に施工された造作収納、建主の祖父がずっと昔につくった棚などを配置しました。このようにすることで、「本当に必要なものをきちんと作って長く使い続ける」という新旧の所有者に共通した想いをつなげることを試みました。
また、既存建物には今の時代に新設することはコスト的・法的に難しい部分がたくさんあり、それらを活かすことで新築では得られない建物を獲得することを目指しました。

3階廊下から階段を見る。ワインレッドに塗装した部分は縦穴区画の鉄扉があった部分。

鉄筋コンクリート造の既存ストックを、現代的に再生した好例として評価した。実質的な構造耐力の向上、区画の考えの整理による開放的な空間の獲得、新旧混在の空間表現など、質の高い建築的操作が行われている。1つの建築作品としても魅力的であるが、このような取り組みの集積が現行規制を逆照射し、安全性と創造性の両立に、より多くの関心が向けられることも期待する。
グッドデザイン賞 審査員の評価コメントより

所在地:東京都新宿区
主要用途:専用住宅+貸店舗+ギャラリー
構造:鉄筋コンクリート造
規模:地上3階 地下1階
延床面積:218.96m²
​写真:堀田貞雄
​掲載:LiVES VOL.98、architecturephoto®︎、tecture、designboom、Architizer、ArchiDily、Archello
​受賞:GOOD DESIGN AWARD 2018

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