町で暮らすように泊まるホテル
町から孤立していた建物
築40年ほどになる鉄筋コンクリート造の既存建物は、マンションをホテルに転用しました。既存のマンションは劣化や空室化が進んだ状況でした。博多駅すぐ近くというアドレスは立地こそ昔から良いものの、ニーズは新築時から変化していたのです。
検査済証のない建物で用途変更と旅館業を申請する
ホテルとして建物を運用するには、旅館業の営業許可を取る必要があります。また、既存建物は共同住宅として建てられていたため、一定の面積を超えて宿泊系のプログラムに転用するためには用途変更の確認申請が必要でした。
既存建物で用途変更や増改築の確認申請を行うには、既存建物が違反でないことが大前提になります。しかしこの建物は、新築時に検査済証が発行されていなかったことで、改めて適法性をチェックすることが求められました。
一部の違反箇所を是正することを前提に、既存不適格1について現行規定に適合する箇所とそのまま維持する箇所を特定行政庁と協議し、用途変更の建築確認を申請しました。
地域独自のルールを読み解いて、今までに無かったホテルをつくる
福岡市の条例では、一定の条件を満たすことでフロントを建物の外に設けることが認められていました。
そこで、私たちはクライアントのオフィスをこのホテルのサテライト・フロントとすることで、既存建物が持っていた中廊下形式の空間構成をそっくりそのまま残すことにしました。
再生・転用ならではの空間がもたらす旅
こうしてオープンしたホテルは、一見すると普通のマンションのような佇まいを見せています。ゲストは「ホテルに泊まりに来た」というよりも、「知人や友人の部屋に泊まりに来た」「少しの間だけ博多に住んでみる」といった感覚でこの建物に訪れているように思えます。
このような体験を可能にしたのは、マンションとして計画された故の建物形式に、泊まるという全く別の行為を重ね合わせるという、転用的なモノの作り方です。そんなブリコラージュ的なモノの使い方が、縮小時代の新しい豊さにつながるヒントかも知れません。
- 新築時は適法であったものの、その後の法改正等によって現行の規定に適合しなくなった状態。現行規定には適合していないが、違反とは異なる。 ↩︎