足し算と引き算の耐震化が 建築と都市をつなぐ
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空間づくりの大手企業とのコラボレーション
丹青社が推進する都心の中小規模ビルを再活性化する取り組み「R2(Real-estate Revitalization/不動産再活性化)」の一環として、小伝馬町に建つ築52年の事務所・店舗を再生しました。
様々な危険性を放置されてきた既存建物
既存建物は、IS値1が0.3未満で、大地震時に倒壊・崩壊する危険性が高い状態でした。それだけでなく、非常時に復旧・復興の要として行政から指定を受けた特定緊急輸送道路2に接することから、都市の安全面からも耐震化が求められるストックでした。
一方で、前面道路は交通量や幅員から工事での利用が制限され、大量の補強材を搬入しづらい立地とも言えます。また、建物内のエレベーターも小さく、補強材の搬入に十分なサイズとは言えない状態でした。
「引き算」と「足し算」の両面から耐震化
このような状況に対して、私たちは「引き算」と「足し算」の両面から耐震化にアプローチしました。
即ち交差点に面する外壁について、全ての非耐力要素を撤去して構造フレームだけの状態にして屋内に補強材を設置しました。
こうすることで建物の自重を軽量化して必要な補強量を軽減し、同時に鉄骨ブレースを短時間で搬入できる経路を確保しています。
新設開口がもたらす環境と時間性
鉄骨ブレースがレイヤードされた既存開口と、ダイナミックに内外を繋ぐ新設開口、開口縮小して打設したRC耐力壁が併存する、時間性を帯びたファサードがもたらされました。
また、基準階は新旧の開口がもたらす多様な屋内環境を活かし、一部フロアのセットアップオフィスを含むサステイナブルなワークプレイスとなっています。
さらに、設備計画は劣化したキュービクルやPS・EPSを含む全体を更新し、現代的なオフィスの仕様に向上させたことに加え、給水方式を変更することで建物重量を軽減させるなど「引き算の耐震化」と連動した内容としました。
次の50年を見据えたストックに
この建物は特定緊急輸送道路に面していることから耐震診断が義務付けられており、前オーナーによって耐震診断までは実施されていました。しかし、実際に耐震化を実現するには様々な困難が立ちはだかります。ウィンド小伝馬町ビルも、IS値の低さや立地条件などの諸条件が絡み合った結果、長らく耐震化されないまま放置されていました。
今回は悪条件を逆手に取った発想が状況を打開したと言えるかも知れません。築50年の建物が、このようにして時間の重層性とWellnessを備え、次の50年を見据えたストックに生まれ変わりました。