渡邉明弘建築設計事務所 [AKI WATANABE ARCHITECTS]

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ヴォイドからフレームに空間の主題を移すことで、場当たり的な改修で失われていた建物の価値を取り戻す

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Category
Date
2023.4
Summary

築40年ほどの店舗・事務所ビルの再生。場当たり的な改修で空間の魅力や遵法性・合理性が失われていた状態に対して、キーテナントを稼働させながらそれらを解決するために、空間の主題をヴォイドからフレームに再構成した。また、外壁に開口を新設することで使われていなかった一部の屋内をインナーガレージに更新したり、ライティング計画によって季節や時間の感じられる場所・周囲の環境を向上させる存在に再構築した。

Project Point
  1. キーテナントを退去させることなく、稼働したまま工事ができる計画
  2. ヴォイドからフレームへと空間の主題を再構築
  3. コンビニ区画の残余だった歪な空間を階ごとに区分し、水回りで緩やかに二分された空中階のオフィスと、半屋外化して生まれた地上階のインナーガレージに整理
  4. 既存の要素や新しく挿入したエレメントをきっかけにした光の扱いで、季節や時間を可視化するとともに工業地帯の環境を向上させる

場当たり的な改修で失われていた建物の価値

築40年ほどの店舗・事務所ビルの再生です。
既存建物は弁当屋の工場として新築されました。当初は全階を貫くヴォイドが1階の工場と2階の事務所を繋ぎ、棟屋からの光を1階まで届ける、立体的な空間構成をしていました(1987年新築時 参照)。

その後の工場移転に伴い、テナントビルへ転用すべく大規模な改修が行われました。具体的には、1階の区画が変更され、吹き抜けは1階の天井で塞がれました。吹き抜けの閉塞は、空間の連続性を失くしたことに加え、適切な防火区画がなされておらず遵法性が失われました。また、事務所はコンビニ区画の残余をあてがわれたような形になり、迷路のように入り組んだ合理性に欠けるプランになってしまいました(1997年改修)。

新築時、過去の大規模改修、そして今回の再生に関する平面図と断面図。赤く示した部分は今回の施工箇所。

使いながら工事と結びついた、ヴォイドからフレームへの空間の再構成

オーナーの意向は、空室になっていたオフィスを一新することと、不足していた駐車場を増やすこと、それをコンビニを稼働させながら行うことでした。局所的・場当たり的な処方により失われた建物の活力を取り戻したいが、収益源のコンビニは稼働させ続けることが前提だから、失われた連続空間は取り戻せない。
このような状況に対して、私たちは被覆やブレースの無い純粋な架構を露わにすることで、ヴォイドで立体的に繋がる空間から、フレーム間を視線が抜ける水平で広がりのある空間に再構成しました。2階は水まわりで緩やかに二分してフレキシブルなワークプレイスとしています。

2階事務所の西・南側開口を見る。閉鎖的な既存間仕切り壁を取り払い、室内に光や景色を取り込んだ。耐火被覆やブレースが必要ないからこそ可能となった露出の鉄骨架構や、窓周りの納まりの工夫により、水平で広がりのある空間を構成した。
既存の空間は見通しが悪く陳腐化した内装で、陰気な雰囲気だった。

不合理な空間構成を解消しつつ、不足していた駐車場を確保

勝手口と2階への階段を備える小部屋だった1階は、無理に居室として利用せず駐車場に転用しています。
外壁に開口することで、コンビニの駐車場(日常的に物流車両が利用しているため、過去に隣地を取得して駐車場を拡張した)を減らすことなく、オフィスのインナーガレージを確保することができました。

着工前は事務所へアクセスする裏口があった。
外壁と扉を解体。
完成。
インナーガレージ。コンビニ誘致の際に取り残された、勝手口と2階への階段を備える小空間となっていた1階の一部区画を転用。外壁に開口することで、日常的に物流車両が利用しいつも満員のコンビニ駐車場を減らすことなく、オフィスのインナーガレージを確保。駐車場の数に関する課題は、車社会となった千葉県の多くの地域で普遍的な課題である。

新旧のエレメントで光をデザインする

防火区画のために新設した壁は、棟屋からの光を受け止め、窓まわりは風景を切り取るようにおさまりを調整し、エントランスは円弧状の既存形体を強調してライティングするなど、改修ならではの行為により光を感じられる状態を生み出しました。
その結果、季節や時間を感じられるとともに、殺風景な工事地帯の環境も向上させる場所になっています。

2階事務所の北側入口から室内を見る。既存建物形状を活用し、防火区画形成のために新設した壁(写真右)で塔屋のハイサイドライトからの自然光を受け止めて事務所の奥を明るく照らす。
事務所エントランス。アーチ状の軒裏までライティングすることで、外部へ向けて光が漏れるような照明計画とし、エントランス自体に大きな照明のような働きを持たせた。
2階事務所を東から西に向かって見る。開口からふんだんに取り込まれる自然光を、鉄骨架構の塗装やキッチン壁の仕上げに反射性のある材料を用いることで、部屋の内部にまで行き渡らせた。

大量更新時代へ

このプロジェクトでは、収益源のキーテナントを稼働させ続けることが前提だったため、空間のオリジナリティを取り戻すことは出来ないという条件がスタートでした。
私たちはその状況を逆手に取り、竣工当時の姿を取り戻す復元・保存や、元の空間を改変する更新といった手法とは異なり、現在・未来の社会状況や既存の空間性のポテンシャルなどを総合的に鑑み、少ない手数で最適な処方を施す再生ならではの手法を試みました。

これからの大量更新時代、与件の経年変化に対する局所的・短期的な処方でがんじがらめになったストックがますます増えてきます。そうした建物に対峙した時、更地にゼロから建てるのとは全く異なる、既存のポテンシャルを発見する視点が必要になるはずです。

所在地:千葉県
主要用途:事務所・店舗
構造:鉄骨造
規模:地上2階
​延床面積:約661㎡
調査・企画:渡邉明弘建築設計事務所
設計・監理:渡邉明弘建築設計事務所、赤崎雄太
施工:日幸建設
​撮影:堀越圭晋 / エスエス

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