ヴォイドからフレームに空間の主題を移すことで、場当たり的な改修で失われていた建物の価値を取り戻す
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場当たり的な改修で失われていた建物の価値
築40年ほどの店舗・事務所ビルの再生です。
既存建物は弁当屋の工場として新築されました。当初は全階を貫くヴォイドが1階の工場と2階の事務所を繋ぎ、棟屋からの光を1階まで届ける、立体的な空間構成をしていました(1987年新築時 参照)。
その後の工場移転に伴い、テナントビルへ転用すべく大規模な改修が行われました。具体的には、1階の区画が変更され、吹き抜けは1階の天井で塞がれました。吹き抜けの閉塞は、空間の連続性を失くしたことに加え、適切な防火区画がなされておらず遵法性が失われました。また、事務所はコンビニ区画の残余をあてがわれたような形になり、迷路のように入り組んだ合理性に欠けるプランになってしまいました(1997年改修)。
使いながら工事と結びついた、ヴォイドからフレームへの空間の再構成
オーナーの意向は、空室になっていたオフィスを一新することと、不足していた駐車場を増やすこと、それをコンビニを稼働させながら行うことでした。局所的・場当たり的な処方により失われた建物の活力を取り戻したいが、収益源のコンビニは稼働させ続けることが前提だから、失われた連続空間は取り戻せない。
このような状況に対して、私たちは被覆やブレースの無い純粋な架構を露わにすることで、ヴォイドで立体的に繋がる空間から、フレーム間を視線が抜ける水平で広がりのある空間に再構成しました。2階は水まわりで緩やかに二分してフレキシブルなワークプレイスとしています。
不合理な空間構成を解消しつつ、不足していた駐車場を確保
勝手口と2階への階段を備える小部屋だった1階は、無理に居室として利用せず駐車場に転用しています。
外壁に開口することで、コンビニの駐車場(日常的に物流車両が利用しているため、過去に隣地を取得して駐車場を拡張した)を減らすことなく、オフィスのインナーガレージを確保することができました。
新旧のエレメントで光をデザインする
防火区画のために新設した壁は、棟屋からの光を受け止め、窓まわりは風景を切り取るようにおさまりを調整し、エントランスは円弧状の既存形体を強調してライティングするなど、改修ならではの行為により光を感じられる状態を生み出しました。
その結果、季節や時間を感じられるとともに、殺風景な工事地帯の環境も向上させる場所になっています。
大量更新時代へ
このプロジェクトでは、収益源のキーテナントを稼働させ続けることが前提だったため、空間のオリジナリティを取り戻すことは出来ないという条件がスタートでした。
私たちはその状況を逆手に取り、竣工当時の姿を取り戻す復元・保存や、元の空間を改変する更新といった手法とは異なり、現在・未来の社会状況や既存の空間性のポテンシャルなどを総合的に鑑み、少ない手数で最適な処方を施す再生ならではの手法を試みました。
これからの大量更新時代、与件の経年変化に対する局所的・短期的な処方でがんじがらめになったストックがますます増えてきます。そうした建物に対峙した時、更地にゼロから建てるのとは全く異なる、既存のポテンシャルを発見する視点が必要になるはずです。