渡邉明弘建築設計事務所 [AKI WATANABE ARCHITECTS]

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既存不適格のヴォリュームと転用ならではのプランがもたらす価値と豊かさ

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Category
Date
2019.9
Summary

築40年のRC造複合ビルの再生。事務所フロアを更新した共同住宅は、元オフィスならではの大開口に囲まれる開放的な空間になっている。検査済証の無い建物だったが、法適合調査により違反でないことを確認することで用途変更の建築確認を受けている。既存不適格のヴォリュームを維持したことで、上層階は新築では得られない眺望を獲得している。

Project Point
  1. 新築では得られない、既存不適格のヴォリュームを維持
  2. 事務所として計画された大開口を活かした住環境
  3. 躯体の解体と用途の変更による、実質的な耐力の向上
  4. 検査済証の無い建物において、法適合調査にもとづく既存不適格の証明と違反箇所の是正を行うことで、用途変更を実施

環境の変化から孤立した築40年のストック

築40年の鉄筋コンクリート造の複合ビルを再生した建物です。
駅から徒歩数分という好立地にも関わらず、周囲の環境変化により事務所としての需要が減った結果、建物全体が空室となっていました。また、オーナーはビル内の一画に居住していましたが、家族構成の変化や人数の増加により自宅の間取りに不便を感じている状態でした。

建替えも視野に入れて検討した結果、この建物はオーナーにとって両親が残した形見であったことや、集団規定の既存不適格により建替えると建物規模が縮小されることから、再生することになりました。

以前は1階でオーナーの両親が飲食店を営んでおり、2階と3階が事務所、4階が共同住宅だった。今回は2、3階を事務所から共同住宅に用途変更した。

検査済証のない建物での用途変更・建築確認

計画にあたっては、ニーズが薄れていた2階と3階の事務所を共同住宅にすることが主軸になりました。事務所を共同住宅に変更する部分が100m2を超えるため、用途変更の確認申請が必要となります。1
改修工事における確認申請では既存建物が違反でないことが前提となり、通常は新築時の検査済証をもって既存建物の遵法性を判断されます。

ところが、この建物では検査済証が発行されていないという大きな問題がありました。
そこで、入念に既存建物の法チェックを行うことで、現行規定に適合していない箇所をリストアップしました。一部の小さな違反が見られましたが、それらの部分については是正することを前提に、既存不適格2は一部を維持しながら計画し、確認済証を取得しました。

新築では得られないヴォリュームを残す

既存の建物は、日影規制に対して既存不適格の状態であり、建替えると高さや面積が大幅に縮小してしまう状態でした。上記の手続きを取ることは、新築では得られないヴォリュームを、遵法性を持って残すことを可能にしています。
その結果、上層階では今後新築される隣地の建物により視界や日当りなどの環境が悪化しないことが約束されるなど、再生ならではの不動産的な競争力がもたらされています。

レンガ色の階段室があるのが当該建物。周りの建物よりも頭ひとつ飛び出している。

事務所を転用するからこその住戸プラン

共同住宅に用途変更した2階と3階は、当初は事務所らしいつくりをしていました。具体的には、接道面の南側と低層の隣家が迫る東側で、キャンチレバーの外壁とほとんどフルハイトのサッシが開放的な空間をもたらしていました。
計画初期はこれらを撤去して共同住宅らしいバルコニーのある空間に変更することも考えましたが、私たちはむしろこの事務所由来の要素を残すことにしました。こうして、通常の住宅では作りえないような開放的な住まいが生まれました。

2階平面図。事務所から共同住宅に用途を変更している。コンクリートブロックの界壁を解体して、3住戸を2住戸にした。さらに、面積に算定されていた共用廊下の一部を住戸とすることで、専有部を拡張させた。

採光を確保するための、躯体の解体

既存は事務所という法的には採光が不要な用途だったため、住宅としては法的に有効な採光窓が不足している状態でした。そこで、コンクリートの外壁を解体することで、必要な開口を新設しています。躯体を解体する部分は構造的に不要な部分とすることで、躯体の一部を解体しても耐震性が低下しないように配慮しています。

BEFORE/AFTER
柱間の、構造的に負担の無い部分のコンクリート躯体を解体して、法的に必要な採光窓を確保した。

躯体の解体と用途の変更による、実質的な耐力の向上

この建物はいわゆる旧耐震基準の建物なので、躯体の解体や用途の変更が、耐震性の向上につながることも狙っています。
具体的には耐力上不要な部分を解体することで建物の自重を軽減する「耐震化につながる減量」を行った上で、用途が事務所から住宅に変更されることによる、積載荷重の減量を見込んでいます。
さらに上述した躯体の破壊検査によって、コンクリートの圧縮強度や中性化進度、鉄筋の状況といった構造図との整合性確認も行っています。

使いながら工事をするための、建物内の引越し

今回の工事を機に、オーナー家族はもともと住んでいた最上階の1区画から、新しくつくった住戸に引っ越しました。多少の騒音や粉塵と格闘することにはなりましたが、施工中に仮住まいを確保するよりも経済的な負担を抑えることを優先した施工計画です。

2階住戸。事務所だった特徴を活かした開放的な空間。

新築ではつくり得ない歪みがもたらす価値と豊かさを

今回の既存建物が様々な既存不適格であるように、古い建物には現行の規定に合っていないものが少なくありません。
また、建物の用途を別の用途に変更するには、ある目的のためにデザインされた形を、別の目的に当てはめることになります。すると、ゼロからつくられたモノのように、形が目的と分かち難く結びつくというよりは、ある種の歪みのようなものが生まれます。
これこそが成長時代の合理的なモノづくりとは異なる豊かさの手がかりになるだろうと思っています。

  1. 現在では法改正により200m2を超えたときに用途変更が必要です。 ↩︎
  2. 新築時には適法であったものが、その後の法改正等によって現行の規定に適合しなくなった状態。現行の規程に適合していないが、違反とは異なる。 ↩︎

所在地:千葉県松戸市
主要用途:店舗、事務所、共同住宅  事務所部分 → 共同住宅
構造:鉄筋コンクリート造
規模:地上4階
​延床面積:約500㎡
​撮影:堀田貞男(既存写真以外)

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